大同特殊鋼株式会社(本社:名古屋市東区、代表取締役社長:石黒 武、以下 大同)は、高温に加熱した鋼板を金型でプレス成形するホットスタンピング工法に適した金型用鋼“DHA-HS1”を開発し、2019年4月から販売を開始します。“DHA-HS1”は熱伝導率が高いため金型の冷却時間短縮を通じて生産性向上に寄与すると同時に、軟化抵抗が高いため金型寿命の向上も期待できます。ホットスタンピング工法を用いた金属製品のトータルコストの低減に貢献します。
背景
環境問題を背景として、自動車の燃費向上を目的に車体部品の軽量化が加速しています。そのため、ホットスタンピング工法を用いて製造する、引張り強さが1GPaを超える超ハイテン材(超高張力鋼板)の車体部品が増加しています。通常のプレス工法が室温で鋼板を成形するのに対して、ホットスタンピング工法は高温に加熱した鋼板を金型でプレス成形し、成形中に鋼板を急速冷却することにより高強度を獲得するのが特長です。そのため、ホットスタンピング工法に用いられる金型には、加熱された鋼板の熱を効率的に冷却できる高熱伝導率の鋼材が求められていました。
特長
一般的にホットスタンピング金型用鋼として使用されているJIS SKD61と、当社で開発した“DHA-HS1”を比較した特長は以下の通りです。
- 実用的な金型材料としては業界トップレベルの高熱伝導率「36W/m・K」を達成しました。これにより、820℃の鋼板を200℃まで冷却する時間が35%短縮します。さらに、ホットスタンピング工程の鋼板冷却(ダイクエンチング)時間を短縮しても金型温度は上がりにくく、サイクルタイムの短縮に貢献します。
- 高い実用硬さにより、金型の摩耗量が減少します。
- 高温に加熱された鋼板と接触しても高い硬さを維持でき、ホットスタンピング中の硬さの低下に伴う金型摩耗量も減少します。②の効果と併せ、金属摩耗量は4分の1に減少し、金型寿命が向上します。
なお、“DHA-HS1”はすでに数社のプレスメーカーでの試作評価を実施しており、一部のメーカーでは採用が決定しています。今後も、当社では環境問題に貢献できる製品ラインアップの拡充を進めてまいります。
(*1)…金型表面に820℃の鋼板を接触させた後に鋼板温度が200℃まで低下する時間を計算した結果
(*2)…実際に金型として使用される硬さを、押し込み硬さを示す尺度のひとつであるロックウェル硬さで示したもの
(*3)…600℃保持後の硬さが40HRCになるまでの時間
(*4)…当社内のホットスタンピング模擬試験結果
製品名
DHA-HS1:Die Hot Ace – Hot Stamping 1
(高熱伝導率・高軟化抵抗ホットスタンピング金型用鋼)
呼び名:ディーエイチエー・エイチエスワン
“DHA”は大同特殊鋼株式会社の登録商標または商標です。
売上目標
2020年度 1億円 (製品形状:平角)
特許
日本、中国、アメリカ、スウェーデン、ドイツ、オーストリア、韓国、台湾で出願中
用語説明
熱伝導率 |
熱の伝わりやすさ。高い方が熱は伝わりやすく、熱伝導率の高い金型は加熱した鋼板を速く冷却できる。 |
プレス加工 |
上下の金型で鋼板を挟み込んで成形する加工方法。 |
超ハイテン材 |
日本では一般的に引張り強さ340MPa~790MPaのものを高張力鋼板、ハイテン(High Tensile)、引張り強さ980MPa以上のものを超高張力鋼板、超ハイテンと呼ぶ。 |
耐熱性 |
加熱された高温の鋼板と金型が接触しても金型表面の硬さが低下しにくいこと。金型の硬さが低下すると金型の摩耗がすすみ寿命が短くなる。耐熱性に優れた金型は硬さ低下が小さく長寿命が得られる。 |
実用硬さ |
実際に金型に使用される硬さ。HRCは硬さの単位で、押し込み硬さを示す尺度のひとつであるロックウェル硬さ。 |