NAK開発秘話Product story
3. 製品化から定着までの
知られざるエピソード
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金型の世界では図面通りに作っても、製品の寸法が違うケースがあるという。そうすると削って肉盛溶接して、前の形に戻してから、また表面にシボ加工する。その場合、フォトエッチングした場所は影響が残るがどうするんだ、というシボ加工の問題が出てきて。
まず「シボって何なんだ?」と。フォトエッチングなんて言葉も知らないんですよ!
だけど、棚澤八光社の社長さんが教えてくれましてね。「渡邊さんね、柔らかみのあるフォトエッチング、人肌の感触で接することができるフォトエッチングというのがあるんだ」と。
また、当時研究所の中に写真室というのがあって、フォトエッチングに興味を持っている人がいて。「シャープネスだと、ピン角が残っていると冷たい。Rがつくと柔らかい。そのRは腐食の問題だ」と論理的な解釈をしてくれましてね。
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その方もよくそこに気づかれますね。今ですとわかる話ですけど。
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当時から、人間の感覚っていうのは、光がシャープに返ってきて目に受けるか、それがいろんな角度で幅広く受け止めるかということの違いだ、と。
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今はもう、非常に微細加工できるようになってきましたが、フォトエッチングを機械加工で真似てやろうとしてもシャープで暖かみが出ない。やはりシボ加工はまだまだ残り続けると言われています。
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やっぱり人間の感覚っていうのはすごいですよね。
「溶接」の問題
リカバリーがきくNAKの魅力
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あとは溶接の問題。焼入焼戻しで作った材料というのは、溶接するとHAZ(熱影響部)が残る。パターンにムラがあっては良くない、どうするんだ、と言われて。
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この問題も難しいですよね。
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それもチャレンジしないといけないから、チャレンジした訳ですよ。そうしたら、NAK自身がそういう性質を持っていたんです。この析出硬化という材料は、いっぺん熱を加えると軟らかくなる。もう一回低い温度で加熱すると、元の硬さに戻る。だから溶接しても影響が出ない、リカバリーできる!と。
棚澤八光社さんや研究所の方々に協力してもらったおかげで、これらの問題はクリアできました。
プラ型業界を巻き込んだ
切削テストから、第一号製品の完成
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当時、そんなに硬くても切削ができるということは嘘だろう、と言われていました。それで、プラ型業界の人たちがみんなの前でやってみようと。桶狭間の近くの金型屋さんにNAKを持っていって、切削のテストをしてもらったんです。そしたら「切れる!なんか不思議なことが起きている!」となったんですが、今度は「本当に40HRCの硬さがあるのか?」と疑われて。その場で硬さを測られたんですが、「いや確かにある」と。
後日、その中のある会社がね、業界を代表して、実際の金型で試作をしてみてもいいと言ってくれたんですよ。自動車のフラッシャーランプのレンズ型でした。作りましょう!となったんですけど、金型費用のうち材料費は5%で、残りの95%は加工賃だと。失敗したら加工賃も弁償してもらう、500万円だ!と言われて。
当時、指揮を執っていた開発部長が、それはなんとかします!と約束をしてね。私はヒヤヒヤしながら、「失敗したら大変なことになる。自分の退職金を入れても500万にはならないぞ」と。だけどYESと言っちゃったからさ。
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そこでやってやろうという強い想いが!
500万円をかけてやろうと決めた時のお気持ちは、やはり自信がありましたか?
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いや、自信はないですよ。やりますって言ったけど、足は震えてました。でも、ここまできたんだから、やるしかない。上の人たちには、上手くいく根拠があるのかと聞かれましたけど、やってみなきゃわからないと。で、やってみたら案外うまくいったんですよね。それが第一号ですね。
研究所で注文をとって
切断して販売!?
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始まったプレート販売
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それが成功の事例としてそのあと広がっていく、と。
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いや、その後がまた大変で。金型っていうのはいろんなサイズの対象がいっぱいあって。注文を入れるから、その日のうちに板に加工して棚に入れとけ、次の日にプラ型屋さんが取りに行くからって言われてね。当時、流通の仕組みがなかったから、研究所の人たちが、夕方までにサイズを聞いて、ノコ切断して、棚に積んどいてくれるんですよ。よくやってくれましたよね。
NAK販売成功のカギは三社合併
(流通の参入)
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その後、定着させるというのが非常に難しかったと思うんですけど、ご苦労された点は?
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当時、大同がプラ型やろうとしてもできるわけがないとかね、だいぶ色々言われましたよ。売れたことのベースになって行くのは、やはり3社合併(1976年、大同製鋼(株)、日本特殊鋼(株)、特殊製鋼(株)が合併、商号を大同特殊鋼(株)に変更)で流通さんが参画されたこと。中でも、鐵鋼社さんの存在が相当大きかったと思うんですよ。どこにどう売ったら一番うまく売れるかということをお考えになって、流通の仕組みを作られたのは鐵鋼社の會田東志さん。NAKは俺が作ったんだ、ぐらい言ってましたけど、ある意味その通りだと思います。
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鐵鋼社さんのプラ型という発想と、渡邊さんが作ったNAKという材料が出会ったという。ものすごい出会いですね。
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色んなところにサンプルを置いて行って、ユーザーニーズを捉まえてみて、突っ込んで行く。やっぱりね、ニーズを聞いたままで置いておくと、もうそれで終わりですよ。なぜなんだ?ということをやっていくのが一番重要だなと思いましたね。
NAK80の誕生、
そして世界への挑戦
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